今回の脱走は看護士の対応だけが原因じゃあなかった。
確かに最後の砦が入院と考えていたから期待はずれだったんだけど。
やっぱり自分でも危惧していた人との関わり合いが問題だった。
自分は病気、まわりも病気。
以前からの面識があれば大丈夫なのは当たり前。
でも、どんな患者でどんな背景でどんな状態か分からない。
どの程度の接触でいいのか分からなかった。
個室だったので、それ以外で遭遇する人で目が合えば会釈はしてた。
それ以上自分から関わるのは少し不安があった。
入院して三日目、午前に近くのスーパーに買い物に行った。
帰って、共同の冷蔵庫に飲み物を入れようとすると背後から声がした。
「チルドに入れると冷たくておいしいよ。」
ふり返ると、かわいらしい小柄な女の子が笑顔で話していた。
礼を言い、お互い名乗って別れるかと思うと、
「座らない?」とロビーに誘われた。
お互いのフルネームや年齢など話した。
なんとなく自分の状況を話す雰囲気になる。
かいつまんで話すと、彼女も自分のこれからなどを話してくれた。
親切で、いい子だなあと思った。
すると突然「じゃあ、これで。」と彼女が席を立った。
少し表情が曇ってる?
何か気分害したかなあ。
自分も用事があったので、あまり気にもとめずその場を去った。
午後はお見舞いに親族や友人が来てくれて時間が経った。
その日は週末で外泊の人も多く、病棟は閑散としていた。
夕食時には一杯になるテーブルもまばらだ。
部屋で食事を終え、スタッフルーム前で薬を飲む。
ちょうど音楽番組が流れていた。
テーブルを見ると彼女がいた。
少し積極的に動いてみようかなあ。
お茶を飲む口実で近づいてみる。
「これ、何の番組?」と聞くと答えてくれた。
個室でひとりでいたため寂しさも手伝って、同じテーブルについてみた。
何か話してくれるかと思うと、いきなり彼女は私の方を見ないようにほうづえをつく。
そして、前に座っているなじみらしいおばちゃんと話し出した。
まあ、いいかあーテレビ見てよう。
番組が終わった。
約二十分ほどだろうか無視された感じだった。
彼女も誰も話してこない。
今の自分には積極的に話しかけてツナガリを持つのは無理だ。
やっぱりねえ、と思いながら席を立った。
どうしていいか分からない。
部屋でひとり声を殺して泣いていた。
その晩は全然寝れなかった。
段々思考が負に傾く。
なんか紐をかけるとこないかなあ・・・。
ダメだ!追加で眠剤をもらいに行こう。
やっとの想いでスタッフルームへ行くと、前のロビーには看護士と彼女が薄暗い中はなしていた。
ムリ、近づけない。
そのまま部屋へ帰る。
シンドイ気持ちのまま泣きつかれて寝ていた。
翌朝腫れた顔で起きるというか、起こされた。
食事の後の薬の時に昨夜の状況について話してみた。
対応は事務的だった。
すがる想いで話したのに。
入院に意味を見出せなくなった。
安らげない、孤独感、不信感、死を望む気持ち。
家にいる方がましだ。
衝動的に荷造りをし出した。
やっぱりなあ、病人が病人と向き合うなんて難しいよ。
今の自分には自分を守ることで精一杯。
どうしていいか分かんない。
ただ、ここは今自分がいる場所ではないことだけは分かった。
でも、これが最善策なのか分からなかった。
どう人と関わっていいのか分からなくなっていた。
とにかく逃げ出した。
外泊という名の脱走だった。
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